漫画『しあわせは食べて寝て待て』の作品紹介
のどかな交流と薬膳を描いた、独身女性のスローライフ
- 身体に不調を抱える、おひとり様女性のスローライフ
- お笑いコンビの麒麟・川島明さんおすすめ作品
- このマンガがすごい!2022 オンナ編 8位
作者:水凪トリ
出版社:秋田書店
2024年10月現在、コミックス4巻まで発売中
2024年11月、コミックス5巻発売予定
漫画『しあわせは食べて寝て待て』のあらすじ
38歳の会社員・主人公の「麦巻さとこ」は、膠原病の発症をきっかけに会社を退職。
キャリアを積み重ねることも、マンションを購入する夢も諦め、人生設計を大きく修正することに。
節約をするため、家賃11万円のマンションから家賃5万5千円の団地に引っ越し、週4日のパート収入で生活をし始める。
だるい、節々が痛むなどの体調不良は、いつものこと。
ちょっとしたことで風邪を引き、寝こみがちだが、実家は頼れず、収入も少なくて今後の見通しがたたない。
悩みと不安を抱えながらも、さとこは新しい環境、新しい人間関係の中で、自分なりの生活スタイルを見つけ出していく。
食べるより寝るよりしあわせな気分になれる漫画です。
(引用:『しあわせは食べて寝て待て』コミックス3巻帯より、麒麟・川島明さんのコメント)
暮らしの中に句読点、うってみませんか?
漫画『しあわせは食べて寝て待て』の感想
ご近所さんや勤め先の人々との交流
「こんなはずじゃなかった……」
そう思うことが、誰しも人生で一度や二度はあるだろう。
疲れや体調不良で、身体の無理がきかない。
心安らげる場所がない。
人間関係にイライラする……。
少し心の余裕をなくしたときに、ほっと一息つかせてくれる作品が「しあわせは食べて寝て待て」だ。
本作では、夢のような奇跡や大逆転が起きて、将来が安泰になるような展開にはならない。
描かれるのは、主人公「さとこ」と身近な人たちとのなにげない日常生活。
昨日から今日、今日から明日へとゆったりと時間が流れていく。
92歳の大家「美山鈴さん」、鈴さん宅の居候「司」、パート先の所長「唐さん」など、登場するのはどこにでもいそうな普通の人たち。
皆、気のいい人たちばかりで、ときどきお節介が過ぎることもあるが、基本的にはつかず離れずののどかな交流に、温かくおだやかな気持ちになれる。
悪い人ではないものの、自分の価値観を押しつけてくる人が登場しても、さらっと解決して引きずることが少なく、ストレスの強い展開にならないのがいい。
主人公のさとこも含め、老若男女、さまざまな人たちがいろんな悩みを抱えながら生きている。
老後の不安、収入の少なさ、生きづらさ、居場所のなさ。
それぞれの生き方、考え、価値観に触れることで、さとこは健康だった会社員時代とは違う、自分なりの新たな生活を確立させていく。
一番心に残ったのは鈴さんの言葉だ。
「こう考えるのは どうかしら」
(引用:『しあわせは食べて寝て待て』コミックス1巻より)
「新しい自分になったのだって」
「お金が無いなら 無いなりに」
「体力が落ちたなら 落ちたなりに」
「けっこう楽しいことって 起こるわよ」
酸いも甘いも経験してきた92歳の言葉だけに、実感がこもっていて説得力がある。
さとこも鈴さんの言葉を受けて、少しずつ前向きに動き出す。
食費の使いすぎに悩みながら節約を心がける。
薬膳を日常に取り入れてみる。
自分にもできそうな副業を考えてみる。
さとこが体調と折り合いをつけながら、何かできることはないかと考えたり、ささやかな楽しみを見つけたりする姿は、「よし、自分も何か探してみよう」と刺激をくれる。
物語を読み進めるうちに、自分も団地住民の一員となって、人生の苦楽を共有しているような気分にさせてくれる作品だ。
食事への興味が増す薬膳の知識
本作の題材の一つが薬膳。
旬の食べ物やその効能を知るのは楽しく、さとこが作るお粥は胃に優しそうだし、梅シロップ作りは真似したくなる。
といっても、本作は決して「薬膳を推奨する漫画」ではない。
たとえば、さとこが頭痛に悩んでいるときに、鈴さんから大根をすすめられるシーン。
大根をかじったら本当に頭痛が治ったので、さとこが鈴さんにお礼を伝えると、「えっ ほんと??」と当の鈴さんに驚かれるエピソードがある。
他にも、薬膳に詳しい司が食材の効能をたまに疑う、とこっそり明かすシーンがあったりと、「薬膳は決して万能薬ではない」というメッセージが随所に散りばめられている。
「薬膳」は、あくまでも題材の一つ。
知識を食事に活かした上で、「美味しかったら嬉しい、身体に良い効能があったらラッキー」程度の、「生活に取り入れてみるのもいいですよ」と控えめな表現になっているのがいい。
フリーハンドで描かれる、温かみのある絵柄
人物も小物も背景も、ほぼフリーハンドの細い線で描かれているので、絵柄に硬さや鋭さがなく、全体的に柔らかい印象を受ける。
ほっこりした安心感を覚えるのは、だからだろう。
自分の心が弱っているときには寄り添い、少し元気が欲しいときには、そっと背中を押してくれる。「しあわせは食べて寝て待て」は、そんな作品だ。
関連URL
【秋田書店・作品紹介サイト】
『しあわせは食べて寝て待て』
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