小説『女神様がやっちまいなとの思し召しです』の感想

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小説『女神様がやっちまいなとの思し召しです』の作品紹介

たった5つの問いで冤罪を晴らす、聖女の鮮やかな逆転劇

要約
  • 冤罪・溺愛・ざまぁが、ぎゅっと凝縮された短編作品
  • 応援したくなる人柄と背景が設定された、主役カップル
  • 読者に「やっちまいな!」と感情移入させる文章力の高さ

原作:まゆらん
漫画:うき太郎
出版社:一迅社
『悪役令嬢ですが、幸せになってみせますわ! アンソロジーコミック』8巻に、コミカライズ収録

小説『女神様がやっちまいなとの思し召しです』のあらすじ

伯爵令嬢「メイリン」は、癇癪持ち、変人、妹弟いじめなどで悪名高い有名人。

16歳のある日、義妹「ユーミア」を虐げた罪により、メイリンは王太子「カイゼン」から国外追放の刑に処されてしまう。

それから2年後、国内を汚染する瘴気に悩んだカイゼンは隣国に助力を求めた。

面談の場に現れたのは、隣国の王太子「ジュード」と、隣国の聖女でジュードの婚約者となったメイリン。

それぞれの思惑が錯綜した結果、瘴気の浄化をする前にメイリンはある条件を出すことにした。

「ではカイゼン殿下。こちらが一つ目の問題です」
「こちらの質問への答えが分かりましたら、お答えくださいませ。正解でしたら、最初の都市の浄化を致します」

(引用:『女神様がやっちまいなとの思し召しです』)

かつて悪女と断罪された聖女による、くだらない趣向と思われていた問答は、じょじょに効果を発揮し、やがて国内外に多大な影響を及ぼすこととなる。

小説『女神様がやっちまいなとの思し召しです』の感想

冤罪・溺愛・ざまぁが鮮やかに展開するストーリー

無実の証明は難しい。

その手段があったとしても、敵役の地位が盤石で、ロマンティックな物語に人々が心酔していたら、どれだけ真実を主張したところで信じてもらえない。

ならば、どうすればいいか?

当事者に真実を明らかにさせればいい。

主人公メイリンがカイゼンに問答を持ちかけたのは、そのためだ。

物語はメイリンの国外追放から始まり、メイリンの聡明さ、ジュードの溺愛、名誉回復、敵役の「ざまぁ」までがテンポよく展開され、ストレスなく一気に読み終えることができる。

メイリンを虐待していた中心人物は義妹と父親だが、その末路はさらっと触れられる程度でしかない。

詳しい断罪描写がないことによって「その程度の小悪党」という印象が強まり、嘘と偽りで塗り固めた2人にふさわしい「ざまぁ」演出となっている。

物語が進むにつれてメイリンが報われ、ジュードの溺愛が加速していく展開は、短編でありながら充分な満足感がある。

一方で、偽りのおとぎ話にひたっていたカイゼンや母国の民が大混乱に陥る様は、滑稽で面白い。

本作の文章量は約2万5000字。
ちょっとした空き時間や一日の終わりに読んで、すっきりした気分になりたいときにおすすめの作品だ。

主役カップルの相思相愛の溺愛描写と、敵役カップルとの人柄の対比

不遇だった少女が報われる物語に、少女を愛してやまない恋人の存在は欠かせない。

王太子ジュードは、「黒き獅子」という勇ましい異名をとる。

鬼神にも例えられるジュードが婚約者の聖女にベタ惚れで、ほぼ一貫してメイリンのことしか考えていない、という設定は、それだけでとても魅力的だ。

メイリンを守りたい一心のジュードは、浄化の予定を打ち切ってでも帰国させようとするが、メイリンはそれを拒む。

聖女としての慈悲深さからではない。
ジュードに守られ愛されるだけではなく、自分もジュードを守り愛する存在となるために。

そもそも、メイリンが隣国の聖女として生きていくだけなら、わざわざ汚名をすすぐ必要はなかった。

聖女の力が目覚め、隣国の王太子や国民から愛され、心の傷も癒えてめでたしめでたし、という物語でも成立はするし、そういう方向性で書く選択肢もあっただろう。

だが将来、国を背負う立場になるからには、瑕疵となる汚名を抱えたままにしておくわけにはいかない。

王太子であるジュードの隣にあり続けるために、メイリンはどんな手を使ってでも名誉を挽回すると決意する。

愛する人のために戦う覚悟を決めた少女は、気高く、美しい。

カイゼンに問答を持ちかけ、冷静に賢く立ち回るメイリンに、読者は好感を抱き、タイトルにあるように「やっちまいな!」と応援したくなるので、大団円となったあとの読後感がとてもいい。

また、本作では2人の聖女と2人の王太子が、対比する存在として描写されている。

主人公メイリンと、メイリンの義妹ユーミア。
隣国の王太子ジュードと、メイリンの母国の王太子カイゼン。

王太子が聖女を寵愛するのは同じだが、2組のカップルの結末は真逆のものとなる。

健気で働き者のメイリンと、上辺だけを取り繕ったユーミア。

メイリンの悪名を知りつつ、実際に目にした少女の言動で人柄を判断したジュード。

自分自身とユーミアの清廉性を盲信し、真実を確かめようともしなかったカイゼン。

どちらが真っ当な人物で、どちらに「義」があるかは言うまでもない。

カイゼン&ユーミアの浅はかさを描くことによって、ジュード&メイリンの実直さが際立ち、好感度が高まる対比となっていて、この作品の魅力を高める要因となっている。

短編小説としての秀逸さと、書かれていない余白を想像する楽しさ

文章は読みやすく、情報の出し方はわかりやすく、過不足もない。

ストーリーが綺麗にまとまっている一方で、想像を膨らませる「余白」がある楽しさもある。

隣国での浄化の旅の道中で、ジュードとメイリンの間にどのような出来事があったのか。

メイリンを口説き落とすために、ジュードはどのような行動を取ったのか。

妻と同様に子どもたちも溺愛するジュードが、どれだけの気苦労をするはめになったか。

物語が完結したあとも、メイリンとジュードの仲睦まじいやり取りを想像したくなるほど、幸福な余韻が続く作品だ。

関連URL

【原作小説:小説家になろう】
『女神様がやっちまいなとの思し召しです』

【コミカライズ:Amazon】
『女神様がやっちまいなとの思し召しです 』(ZERO-SUMコミックス) Kindle版

【コミカライズ:Amazon】
『悪役令嬢ですが、幸せになってみせますわ! アンソロジーコミック: 8』 (ZERO-SUMコミックス) Kindle版

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